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名古屋地方裁判所 昭和56年(ワ)173号 判決 1985年6月25日

原告 協同リース株式会社

右代表者代表取締役 菊池弘

右訴訟代理人弁護士 羽田忠義

同 宮崎好廣

同 田島恒子

右訴訟復代理人弁護士 川森憲一

同 遠山信一郎

被告 株式会社中日製作所

右代表者代表取締役 林光蔵

右訴訟代理人弁護士 岩越平重郎

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

1. 被告は原告に対し、金四九六万三九一三円及びこれに対する昭和五五年九月二七日より支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

3. 仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1. 原告は被告から、昭和五四年七月七日、三菱電機製空冷式エアコン四台(一五トン二台、一〇トン二台、以下、本件物件という。)を他の物件とともに次の約定で買受け、代金は支払済みである(以下、右売買契約を本件売買契約という。)。

(1)  代金

総額金三〇〇八万三一〇〇円

(右代金総額のうち、本件物件の売買価格は、一五トン規格一台につき一一五万二〇〇〇円、一〇トン規格一台につき九〇万二〇〇〇円、合計金四一〇万八〇〇〇円である。)

(2)  引渡方法 沖縄県平良市西里五五七番地、株式会社ニューサンエイ(以下、訴外ニューサンエイという。)宮古ショッピングセンターに引渡す。

(3)  引渡期日 昭和五四年八月一〇日

2. 原告は、リースを業とする株式会社であり、昭和五四年八月六日、訴外ニューサンエイとリース契約(以下、本件リース契約という。)を締結し、第1項記載のとおり被告から買受けた物件(本件物件を含む。)をリース契約金額金四一五四万四〇〇〇円で訴外ニューサンエイに賃貸した。

3. 第2項記載のリース契約は、本件物件を訴外ニューサンエイの宮古ショッピングセンターに設置させる約定であったので、前記1記載の原告と被告との売買契約における本件物件の引渡先及び引渡場所も右同所とする約定であった。

被告は、右引渡場所において、本件物件の引渡を履行するに際し、訴外株式会社中日マーケティング開発プロジェクト(以下、訴外中日プロジェクトという。)に本件物件の運送を依頼したが、被告の履行補助者である訴外中日プロジェクトは引渡日である昭和五四年八月一〇日を過ぎても引渡場所に本件物件を引渡すことなく、本件物件の所在を不明にして被告の債務を履行不能にした。

4. 原告は、被告の前記債務不履行により、次のとおりの損害を蒙った。

(一) 原告は、本件物件を訴外ニューサンエイにリースするために、被告より右物件を購入したもので、換言すれば、被告製作の本件物件を訴外ニューサンエイが使用するにつき、被告と訴外ニューサンエイとが、原告のリース契約を利用したものであるから、被告は当然、本件物件につき原告がリース契約の賃貸人たる地位に立つことを承知していた。したがって、原告は本件物件の喪失により、右喪失物件の売買価格にとどまらず、リース契約金額を得べかりし利益の喪失として賠償請求できる。

(二) 右リース契約金額は全体としては金四一五四万四〇〇〇円であるが、本件物件は契約対象物件の一部であるから、本件物件の全物件において占める割合によって、損害額を算出しなければならない。

しかるに、原・被告間の売買契約においては、個別物件毎の売買価格が見積られており、それによれば、全物件の売買価格が金三〇〇八万三一〇〇円であるところ、本件物件の売買価格は金四一〇万八〇〇〇円となっている。

よって、本件物件のリース契約金額は、41,544,000×4,108,000/30,083,100=5,673,044円となり、この金五六七万三〇四四円が損害額である。

5.(一) ところで、原告は訴外ニューサンエイより前記リース契約のリース料名下に月額五七万七〇〇〇円の割賦金を九月分で計五一九万三〇〇〇円受領している。

右受領金員のうち、本件物件に相当する金額は、前記のとおり全物件のリース契約金額が金四一五四万四〇〇〇円、本件物件のリース契約金額が金五六七万三〇四四円であるから、5,193,000×5,673,044/41,544,000=709,131円となる。

(二) 本来原告は被告に対し、損害金として前記リース契約金額五六七万三〇四四円を請求でき、他方訴外ニューサンエイよりの入金分金七〇万九一三一円は、訴外ニューサンエイに対する関係で不当利得となる筋合だが、原告が訴外ニューサンエイに対し相当額の貸倒債権を有し、訴外ニューサンエイもそれを承知して、リース物件の不足にもかかわらず約定のリース料九ケ月分の支払いをなし、且その返還を請求して来ない本件の事実関係においては、右七〇万九一三一円は事実上の損害補填として処理し、原告としては、右金員を控除した残額金四九六万三九一三円を被告に対する損害として賠償請求する。

(三) また、遅延損害金の起算日については、原告は被告に対し、前記損害につき昭和五五年九月一六日到達の内容証明郵便で到達後一〇日以内に支払って欲しい旨催告したが、右期間内に履行がなかったので、右期間経過後の昭和五五年九月二七日より遅延損害金の支払いを求める。

(四) よって、原告は被告に対し、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二、請求の原因に対する認否

1. 請求の原因第1項は認める。

2. 同第2項のうち、原告がリースを業とする株式会社であること、原告が本件物件を訴外ニューサンエイにリースしたことは認め、その余は不知。

3. 同第3項のうち、本件物件を含む三菱電機株式会社製空冷式エアコン合計一二台が当初宮古ショッピングセンターにおいて引渡される約定であったことは認めるが、その余は否認ないし不知。

被告は本件物件を含む一二台のエアコンの運送をその仕入先である訴外進冷機(福岡県田川市)こと進宏に依頼した。進冷機により右売渡商品が宮古平良市に搬入された当時、宮古ショッピングセンターは建設工事中であったため、当初の引渡場所についての前記約定が変更され、被告は右商品を一旦賃借人訴外ニューサンエイ経営のプラザイン宮古(宮古ショッピングセンターから二、三キロメートル離れている。)に持込んだ後、いずれも訴外ニューサンエイが経営し、宮古平良市内に所在する宮古ショッピングセンター、プラザイン宮古、ホームセンター・バイタックの三店舗に分けて設置し、昭和五四年八月一〇日頃同所において原告に引渡した。

右引渡しに当っては、賃借人訴外ニューサンエイは勿論賃貸人原告からも福岡営業所担当者が立会って検収し、被告は同年八月二八日頃約束手形により売買代金全額を受領したものである。

4. 同第4項のうち、本件物件は、原告が訴外ニューサンエイにリースするため被告から購入するものであることを被告が知っていたことは認め、その余は争う。

三、被告の主張及び抗弁

仮に、本件売渡物件にエアコンの数量不足があったとしても、左記のとおり、被告には損害賠償責任はない。

1.(一) 原告はリース業を営む者であり、被告も各種冷蔵オープンショーケース等の製造販売を業とする者であるから、本件売買は商人間の売買である。

(二) 本件売買契約により売渡された物件は本件物件に限られるものではなく、各種冷蔵オープンショーケース、冷凍機、空冷式エアコン一二台を含むものであった。

被告は、前記のとおり、右売買商品を昭和五四年八月一〇日頃に商品の受取、検収を原告に代って行う訴外ニューサンエイに引渡した。特に、エアコンについても、一部としてではなく、一二台全部として引渡され検収がなされたのであって、履行が全くなかったという問題ではなく、引渡商品の数量不足の問題である。

(三) 仮に、本件売買商品につき、本件エアコン四台の数量不足があったとしても、原告は訴外ニューサンエイが倒産した昭和五五年四月頃までこの事実を被告に通知しなかった。

よって、原告は被告に対し本件損害賠償を求めることはできない。

2. 本件リース契約においては、賃借人(訴外ニューサンエイ)が物件借受証を賃貸人(原告)に交付したときは、たとえリース物件に瑕疵、数量不足があっても賃貸人は一切責任を負わず、賃料債務は当初の約定どおりで、これにより何らの影響も受けないことになっている。

よって、原告の本件損害は賃借人である訴外ニューサンエイの倒産により生じたものであって、被告の本件売買契約の履行とは直接因果関係はない。

四、被告の主張及び抗弁に対する原告の主張

1. 前記三1のうち、(一)は認める。

(二)のうち、本件売買契約の対象物件がエアコン四台に限らないことは認め、エアコンについて一部でなく一二台全部として引渡がなされたことは否認し、本件が引渡商品の数量不足であることは争う。

(三)のうち、原告が昭和五五年四月頃まで数量不足の事実を被告に通知しなかったことは認めるが、その余は争う。

なお、原告は本件売買契約につき、商法五二六条の適用を主張するが、同条は投機的売買契約を基礎にして発生した法理とされているところ、原告はリース業、すなわち一種の金融業を営む者であり、物品の投機的売買を業とする者ではないから、原告がリースのためになした本件売買契約には同条の適用は認められるべきではない。

2. 前記三2のうち、本件リース契約中に、被告主張の約定が存在することは認めるが、その余は争う。

五、再抗弁

1. 仮に、リース業者の物件の購入に商法五二六条が適用されるとしても、本件売買契約には、注文請書契約条件5に「数量不足が<省略>あった場合には、売主は買主の請求に従い、<省略>代金の減額その他金銭賠償を直ちに行うものとします」との記載があり、これは商法の規定に基づく買主の検査・通知義務及びその不履行による権利行使の制限を排除し、無条件に数量不足による損害賠償責任を負担する特約に他ならないから、右特約により本件の売買には商法五二六条の適用は排斥される。

2. 万一、本件売買に商法五二六条の適用が肯定されるとしても、被告は数量不足について悪意であり、損害賠償の責を免れない。

六、再抗弁に対する被告の認否

1. 前記五1につき、本件売買契約中に原告主張の契約条項が存在することは認めるが、その余は争う。

2. 前記五2につき、被告が数量不足につき悪意であったことは否認する。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因第1項の事実、同第2項のうち原告がリースを業とする株式会社であること、原告が本件物件を訴外ニューサンエイにリースしたこと、同第3項のうち本件物件を含む三菱電機株式会社製空冷式エアコン合計一二台が当初訴外ニューサンエイ宮古ショッピングセンターにおいて訴外ニューサンエイに引渡される約定であったこと、同第4項のうち本件物件は原告が訴外ニューサンエイにリースするため被告から購入するものであることを被告が知っていたことは、当事者間に争いがない。

二、右当事者間に争いのない事実と、<証拠>を総合すれば、以下の事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

1. 原告は、昭和五八年八月六日、訴外ニューサンエイとの間において、本件物件を含むエアコン一二台、冷蔵オープンショーケース等合計三九点をリース物件とし、契約金額・合計金四一五四万四〇〇〇円、リース期間・物件借受証交付の日から七二か月、リース料・毎月五七万七〇〇〇円、引渡場所・訴外ニューサンエイ宮古ショッピングセンター、との約定でリース(賃貸)するリース契約を締結した。右リース物件(以下、本件リース物件という。)は、本件売買契約により原告が被告より買受けたもの(以下、本件売買物件という。)である。なお、本件物件を含むエアコン一二台は三菱電機製であるが、被告はこれを訴外中日プロジェクトから仕入れ、訴外中日プロジェクトはこれを訴外進冷機こと進宏から仕入れている。

2. 被告は、右引渡場所において、本件売買物件の引渡を履行するに先立ち、訴外中日プロジェクト(代表取締役山崎富郎)にその運送を依頼した。

3. 昭和五四年当時、訴外ニューサンエイは同年七月に宮古ショッピングセンター、プラザイン宮古、ホームセンターバイタックの三店舗を同時に開店する計画を立てていたが、工事の都合で宮古ショッピングセンター、ホームセンターバイタックの二店のみが同年八月中に開店し、プラザイン宮古は同年一〇月上旬頃に完成した。

4. 訴外中日プロジェクトの代表者山崎富郎は訴外ニューサンエイの子会社である株式会社オキナワマイショップの株主の一人であり、宮古ショッピングセンター建設工事については、訴外中日プロジェクトが設計、施工、監理をしていた。

被告は前記2記載のとおり訴外中日プロジェクトに本件リース物件の運送を依頼すると共に、右物件の納入ないし設置について訴外ニューサンエイと具体的な打合せ及び決定をすることも訴外中日プロジェクトに任せていた。

5. 本件売買物件は、昭和五四年八月八日、訴外ニューサンエイ宮古ショッピングセンターにおいて、原告と被告との間における本件売買契約の履行として、原告福岡営業所の秋芳立会の下に、訴外中日プロジェクトの山崎富郎より訴外ニューサンエイの従業員に引渡された。

訴外ニューサンエイの従業員は、原告に代って本件売買物件を受け取ると、前同日中に右受取物件全部について検収を行なった。右検収は、本件リース契約の賃借人である訴外ニューサンエイが賃貸人である原告に代って本件売買契約に基づく引渡を受けた際になすものであり(甲第二号証注文請書契約条件1)、同時に、それは、本件リース契約に基づく引渡を受けた際に賃借人がなすものでもあった(甲第一号証の一、二、リース契約書五条一項)。そして、訴外ニューサンエイの従業員は、右検収を行なうと直ちに本件リース物件(即ち本件売買物件)全部につき物件借受証を作成し、右引渡並びに検収手続に立会っていた原告福岡営業所の秋芳に右物件借受証を交付した(本件リース契約書五条一項)。なお、右物件借受証の日付、本件リース契約書記載の引渡予定日、前記注文請書記載の引渡月日は、いずれも、切りのよい同年八月一〇日とされている。

6. その後同年八月二五日頃、原告は被告に対し、約束手形により本件売買代金全額を支払った。

7. その後、昭和五五年二月まで、訴外ニューサンエイから原告に対し、本件リース物件が足りないという異議が申立てられたことはなく、また、リース料も約定どおり訴外ニューサンエイから原告に支払われていた。

8. 訴外ニューサンエイは昭和五五年二月二六日に倒産した。そこで同月二八日、原告福岡営業所長の三宅祝雄が沖縄県平良市に赴き、本件リース物件の確認をしたところ、本件リース物件のうち本件物件のみが宮古ショッピングセンター、プラザイン宮古、ホームセンターバイタックのいずれにも存在していなかったので、更に調査した結果、本件物件は昭和五四年一〇月プラザイン宮古を荷送人とし、株式会社三豊を荷受人として野母商船株式会社により宮古から福岡市に船輸送され、さらにその後昭和五五年三月頃、福岡市の田脇電設(代表田脇義臣)に引渡されたこと、現実に本件物件を宮古から福岡市に送り、田脇電設に引渡したのは訴外中日プロジェクトの代表者山崎富郎であること、右山崎は何らかの原因により訴外ニューサンエイから相当多額の手形の振出を受け、右手形を右田脇電設に廻していたところ、右手形が不渡になったため、金額一〇〇万円の不渡手形の代償として右山崎が右田脇電設に本件物件を引渡したらしいこと等の事情が判明した。

9. 原告は、昭和五五年九月一三日に至り初めて被告に対し、被告が本件物件を引渡場所に納入する途中で喪失したことを理由として、リース契約に基づく損害金四九六万三九一三円の支払を求め、右通知は同月一六日に被告に到達した。

三、前記認定事実(5ないし8)によれば、本件物件は、本件売買契約に基づく他の売買物件と共に、昭和五四年八月八日、訴外ニューサンエイ宮古ショッピングセンターにおいて、被告より原告に引渡されたものと認められる。

この点につき、証人三宅祝雄は、昭和五五年六月初頃、訴外中日プロジェクトの設計担当職員の山口と同行して宮古ショッピングセンターに本件物件が設置されたことがあるかどうかを確認したところ、設置された跡が見当らなかったので、本件物件は検収の際宮古ショッピングセンターに設置されていなかったとの結論に達した旨供述しており、また、証人矢石勝二の証言並びに右証言により真正に成立したものと認められる甲第八号証によれば、一般にエアコンは店内における設置の仕方によって天つり型と据置き型とに分けられ、五トン規格のものは天つり型、一〇トン規格のものは殆ど天つり型、一五トン規格、二〇トン規格のものはいずれも据置き型であること、店舗別では宮古ショッピングセンターには天つり型三台位、ホームセンターバイタックには据置き型四台位、プラザイン宮古には据置き型四台位がそれぞれ実際に設置されていたこと(但し、各開店時から昭和五五年二月末まで終始取り付けられていたかどうかは不明)が認められるので、本件物件の規格及び数(一五トン二台、一〇トン二台)からして、本件物件のすべてが宮古ショッピングセンターに設置されたことを認めることはできない。

しかし、右証拠によっても、本件物件が宮古ショッピングセンター、ホームセンターバイタックないしプラザイン宮古に設置されたことが全くなかったとはいえない。

のみならず、<証拠>によれば、そもそも本件リース契約書上は、リース物件の引渡場所及び保管場所が宮古ショッピングセンターとされているが、訴外ニューサンエイは本件物件を含む本件リース物件を前記三店舗に分けて設置する意図を有していたこと、被告はこのことを十分承知していたこと、原告も訴外ニューサンエイが前記三店舗を同時開店させることは十分承知していたことが認められるのであり、右各事実並びに、前記認定のとおり本件リース物件の検収手続が原告社員関与の下でスムーズになされていることよりすれば、原告も、本件物件を含む本件リース物件がすべて実際に宮古ショッピングセンターに設置されることには必ずしもこだわってはおらず、前記日時、場所において被告よりその引渡を受けたことが推認されるのである(もし、原告が本件リース物件は宮古ショッピングセンターのみに設置されねばならないと考えていたのであれば、このように簡単に検収手続がすむことは到底考えられない。)。

なお、リース物件の引渡については、店舗内への設置をもって引渡完了とする場合が多いであろうが、設置を伴わない引渡も当然あり得るから、設置がなされなかったから引渡はなかったとする主張は失当といわざるを得ない。

また、前記認定事実(8)によれば、本件物件は昭和五四年一〇月に訴外中日プロジェクトの代表者山崎富郎により福岡に送り返され、他に処分されているが、このような行為は、訴外中日プロジェクトが被告の履行補助者として原告に対する本件物件の引渡しを完了した後に、被告と無関係になされたに過ぎないものと認められるから、本件物件の引渡の効果を左右するものではない。

従って、原告が主張する本件売買契約に基づく被告の本件物件引渡債務の履行不能は、本件全証拠によってもこれを認めることができない。

四、仮に、本件物件が昭和五四年八月八日に被告より原告に引渡されていなかったとしても、本件リース物件中の本件物件以外のエアコン一二台が前記日時に原告に引渡されたことは明らかである(前記認定事実8)から、商法五二六条の適用が問題となる。

しかるに原告は、本件リース物件(即ち本件売買物件)の数量不足につき、被告に対し、直ちにその旨を売主たる被告に対し通知していない(前記認定事実6ないし9)。

そして、被告が本件売買物件の引渡の時に数量不足があることを知っていたことは本件全証拠によってもこれを認めることができないから、原告は被告に対し、もはや損害賠償の請求をすることはできないものといわねばならない。

なお、原告は、リース業をなすためになされた売買契約については商法五二六条の適用を否定すべき旨主張するが、商人間の売買契約である以上、当事者の一方がリース業者であっても、商取引の迅速結了を目的とする商法五二六条の適用から除外すべき合理的理由は認められないから、原告の右主張は採用できない。

また、原告は、本件売買契約には、商法五二六条の適用を排除する趣旨の特約(注文請書契約条件5)があると主張するところ、前記注文請書契約条件5には「本商品の瑕疵担保期間並びに品質(性能)保証期間については特に定めない限り検収完了後一年間とします。品質不良、数量不足、その他契約条件との相違等瑕疵があった場合には売主は買主の請求に従い代品の納入、瑕疵の修補、代金の減額、その他金銭賠償を直ちに行なうものとします。」との条項があることが認められる。しかしながら、右条項は、商法五二六条が商人間の売買契約において目的物の瑕疵担保責任問題の早期結了を図るという重要な意義を有することに鑑みれば、本件売買契約に基づく被告の瑕疵担保責任の存続期間(民法五七〇条、五六六条所定の期間)を本件売買物件引渡後一か年とすること、瑕疵があった場合には売主は代品の納入等を直ちに行なうことを約したに過ぎないものと解され、右条項をもって、商法五二六条一項所定の買主の検査ないし売主に対する通知期間を検収後一か年に延長すること、または、通知期間の制限を全く排除することを約したものと解することはできないから、原告の右主張も失当である。

五、以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川井重男)

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